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 ACT1.聖杯、蘇る刻 〜Break a Peace〜

 

  時計の秒針がカチコチと鳴り、本を捲る度にぱらぱらと静寂の室内に時間という概念が響き
 渡る。
  赤い縁の眼鏡を、つ、と手で直して、遠坂眞姫は熱心に本を読み続けていた。
  その1ページ1ページには、聖杯戦争について語られていた。聖杯、聖杯戦争、サーヴァン
 ト、令呪、といった単語が絶え間なく続き、聖杯戦争というシステムそのものが綴られている。
  愛美の家から帰宅してすぐに、眞姫は自宅の地下倉庫に潜った。
  サーヴァントを召喚するためには触媒が必要であるということ。また、儀式を行うための準
 備を行わなければならないため、宝石の用意も万端にしておく必要があったからだ。
  そんな中、普段行き来している地下倉庫でふと目に止まった一冊の本。ただ棚に差し込まれ
 ただけの埃だらけの本に、眞姫は何気なく手を伸ばしてみたくなった。
  
まるで、聖杯戦争という単語がお互いを引き寄せたかのような不思議な感覚に浸かりながら、
 眞姫はその本を手に取った。全容、とまではいかないものの、聖杯戦争に参加した一人の魔術
 師として見た聖杯の本質、側面、裏側、その一部始終が克明に記されていたのである。本を綴
 った人物は遠坂凛。眞姫にとって最も尊敬する最高の魔術師である祖母が、まるでこんな日が

 訪れるのではないかと予言したかのように、この本は遺されていた。
  それから没頭すること6時間。
  外はすっかり夜の闇と月の灯りが映える世界へと転じている。
 「うーん……やっぱり疲れるわぁ」
  ぐっと背筋を伸ばして、伸びをする。
  かれこれ6時間近くも読み耽っていたのだ。疲れないはずもない。
  時刻は深夜0時を少し過ぎたところである。
 「さてと」
  椅子から立ち上がり、本を抱えたまま眞姫は地下へと降った。いよいよである。
  ぱしんと自分の頬を叩いて気合を入れる。
  地下室の扉を開け部屋の中央まで行き、眞姫は本を片手に床へ陣を刻み始める。
 「――――消去の中に退去。退去の陣を四つで刻んで召還の陣で囲む、と。――よし!」
  失敗は許されない。師の口癖が脳裏を過ぎり、最後まで集中して、陣を描き終える。
  聖杯戦争はサーヴァントと呼ばれる使い魔を召還する。過去の英雄を使い魔として使役する
 非常識なシステムを現実のものとしたのが、冬木の聖杯戦争だと言う。つまり、非常識を現実
 にするためには、更なる非常識で現実を塗り潰す必要があるのだ。それが、この街の聖杯。聖
 杯あってこそのサーヴァント。サーヴァントあってこその聖杯戦争。この召還の儀式において、
 あの一枚の手紙がもたらした暗雲が、真実かどうかがわかるのだ。聖杯がなければ、サーヴァ
 ントが召されることはない。逆の事態が起これば、それは聖杯の復活を肯定することとなる。
  眞姫はひとつ深呼吸をした。雑念を払い、自らの心を落ち着かせる。聖杯によって生まれた
 
苦しみと悲劇。聖杯の復活がないことを、眞姫も当然望むべきことである。
  ただ、それでも魔術師としての性を表に出すならば、サーヴァントを召還してみたいなんて、
 そんなことを思ってしまうのも、仕方のないことなのだ。そんな邪念に、ごめんなさいと心の
 中で謝って、眞姫は儀式を開始した。
 「っ……! 行くわよ!」
  自ら喝を入れる。邪念を退去させ、目の前の儀式に全てを捧げる。
 「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。
 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
  親指の先からは血液が滴る。それが描き上げた魔法陣の輝きを増幅させる。握った宝石が順
 に、貯め込んでいた魔力を次々に開放してゆく。
 「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破
 却する」
  何が起こるのか、何が起こって然るべきなのか、それを自分の眼で確認するのだと、眞姫は
 強く想いながら、ここで神経を入れ替える。
 「―――――Anfang(セット)」
  魔力が全身を迸った。
  通常の神経から魔術回路へ神経を入れ替え、左腕に奔る魔術刻印にて詠唱を開始する。
  静寂の地下は一転、魔術刻印が引き起こす暴風によって蹂躙される。
 「くうっ……!」
  左腕から、全身へと激痛が走った。
  これまでの想像を遥かに超える魔力が身体を駆け抜けながらに循環する、その痛みに顔が歪
 む。おばあさまと桜さんはこんな痛みに耐えてサーヴァントを召還したのかと、そんなことも
 考えていた。朦朧とする意識を歯を食い縛ることで耐えて、耐えて、耐え抜く。そしてようや
 く、準備がすべて整う。
  
時刻は深夜1時前。
  眞姫にとって魔力を最も上手く扱うことのできる時間帯であり、陣も魔力も準備はすべて整
 っている。失敗は許されない……否、失敗なんてするものかと強く念じて、眞姫の親指から、
 真実を告げる一滴が落ちた。
 「―――――告げる。汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、
 この理に従うならば応えよ」
  魔力が収束し視界が霞む。地下を真っ白な輝きが包み込む。
  後戻りなんてしない。真実が今、目の前に現れるのだ。
 「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏
 う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――――!」
  その言葉に魔力が共鳴し、爆発にも近い閃光が広がった。
  吹き飛んでしまいそうな意識の中で、眞姫は成功を確信した。

 「私を呼んだのは、貴女か?」

  地下に響いた眞姫のものではない別の声。
  左手の甲に痛みを感じながら、眞姫はその問いに返事をしようとする。
  サーヴァントの召還に成功した。その事実だけが目の前にあり、そして、聖杯の復活がここ
 に証明されたのである。
  ふらふらと、おぼつかない足取りも限界を迎えて、眞姫はぺたんとその場に尻餅をついた。
  ちくりと痛んだ左手の甲には、模様が浮かび上がり、それが令呪なのだと主張する。脱力と
 強大な力を目の前に、眞姫の全身は微かに震えている。晴れる視界に、声を出すこともままな
 らなかった魔術師が一言、震えながらに感嘆の声をあげたのだった。
 「……綺麗……」
  荘厳な白銀の甲冑に、眩く金色の髪がまぶしく、エメラルドのような深緑が覗く瞳に、眞姫
 は間違うことなく魅了されていた。
  瞳と瞳とが見詰め合う。
  尻餅をついた魔術師を見下ろしながら、英雄は再び魔術師へと問う。
 「私を呼んだのは、貴女か?」
  眞姫はゆっくりと頷いた。
  
呆然と見つめる眞姫に何かを感じたのだろうか、その英雄は僅かに首を傾げると、とんでも
 ない言葉を口にしたのだ。
 「……凛、ですか?」
  思案顔で訊ねられ、眞姫は思わず絶句する。
  それを英霊は気に障ったと勘違いしたのか、こほんと少し恥ずかしそうに咳払いをし、訂正
 した。
 「いや、そのようなはずはないですね。私は何を言っている……」
 「ねえ……あなた、今……凛って……」
  ようやく意識を介して声が喉を通るようになった。だから聞く。聞かずにはいられなかった。
 どうしてあなたが、その名前を知っているのかと。
 「申し訳ありません。あなたに、以前の聖杯戦争の際に見えた魔術師と同じ面影を感じたので
 す。
あなたからしてみれば、失礼極まりない行為だった。癇に障ったのならば、謝罪しましょ
 う」
 「待って。以前の、聖杯戦争って……?」
  その質問にサーヴァントが不思議な表情を窺わせた。まるで、どうしてあなたがそのような
 ことを聞くのか、そう言いたげな表情だ。
  眞姫は遠まわしに聞くのをやめる。あまりにもまどろっこしい。それに話が全然前に進まな
 い。だから直球で訊ねる。
 「凛って、遠坂凛のこと?」
 「……!」
  サーヴァントの表情が明らかに変わった。それと共に滲み出る警戒の意。
  それとは裏腹に、眞姫は全身を覆う安堵感に包まれる。
 「よかった……。あなた、おばあさまを知っているのね。うん、よかったぁ」
 「……おばあさま……? 凛が、あなたの……?」
  そう、と眞姫は頷いて、震える身体を一生懸命になんとか立ち上がらせる。師の残した手記
 が脳裏を過ぎる。第五回聖杯戦争、遠坂凛に力を貸したサーヴァントが、確かに目の前にいた。
 「貴女、セイバー、でいいわよね」
  眞姫は確信する。この戦い、決して絶望だけに沈められることはないのだと。

 ******

 「そうですか、それでは凛は……」
  場所をリビングへ移して、眞姫は疲れ切った身体をソファーに沈める。
  セイバーに肩を借りながら、今回の儀式が第五回よりどれだけ経て始まったものであるか、
 かつての魔術師が今はどうなったのかと、質問の受け答えをしながら運んでもらい、リビング
 へ着くなり疲労感のままに倒れこんだ。遠坂凛がもうこの世界にいないことを聞いた時のセイ
 バーの顔は、本当に悲しそうに翳りを帯びた。ああ、本当にこのサーヴァントは、おばあさま
 のことを深く想ってくれていたんだなぁと、改めて感じる。だからこそよかったと、眞姫は本
 当に思う。聖杯の再降という、間桐桜とライダーの恐れていた事態が現実となった今、聖杯戦
 争は否応なしに始まるだろう。
 「ところでマスター、ひとつ聞いていいでしょうか?」
  ソファーに横たわる眞姫へと、窓から外を覗くセイバーが訊ねた。
  春の夜の満月。不気味に白過ぎる月は、これからどのような色へと染まるのだろうか。
  この異常事態は、何も眞姫一人が感じるものではないのだ。
 「前回の聖杯戦争において、私は聖杯の最後を見届けることはできませんでした。だが、今回
 の聖杯戦争がおかしいということは、少なくとも私とてわかります。率直に言わせてもらえば、
 第五回の聖杯戦争も異常でしたが、それを上回る何かを、感じています」
  眞姫はもぞもぞと、うつぶせに沈む顔を横にする。
 「そうよ……桜さんのお話と、凛おばあさまの手記では、前回の戦いで聖杯は破壊されている。
 つまり、冬木で聖杯戦争は二度と始まらないはずだった」
 「……そうですか。確かにそれが事実なのだとすれば、この状況は明らかにおかしいのでしょ
 う。我々サーヴァントの依代となるべき聖杯が破壊されたのであれば、私は愚か他のサーヴァ
 ントを従えることなど、到底無理な話です。魔術師と我々サーヴァントの位置づけは、聖杯と
 いう媒介があって初めて成り立つものだ。ゆえに聖杯は魔術師に令呪を与え、サーヴァントを
 従えることを初めて可能にしているのです。そうでなければ、そもそもサーヴァントが魔術師
 に付き従う理由がありません」
 「そう、おかしいのよね。でも、聖杯戦争は始まろうとしている。そうでしょ、セイバー」
  窓際に立つセイバーは厳かに頷く。
  異常を孕みながらも、聖杯戦争が有無を言わさずに始まるであろうことは、眞姫にもセイバ
 ーにもわかっていることだ。そう、聖杯戦争は否応なしに、始まろうとしている。
 「――――って!」
  がばっとソファーから眞姫が起き上がる。
  壁掛けの時計が指し示す時刻は午前1時40分を回ったところだった。
  しくじった、そう自分の愚かさを呪って、眞姫はふらふらと立ち上がった。おぼつかない足
 取りで数歩進み、しかし膝から崩れ落ちそうになる。セイバーが颯爽と駆け寄り、そんな状態
 の眞姫を支えた。
 「いくらなんでも無茶です。あなたはサーヴァントを召還したのです。もう少し休んだ方が」
 「そういうわけにも、いかないのよ……」
  セイバーが眞姫の顔を覗き込むと、その瞳には涙が滲んでいた。自分の不甲斐なさと愚かさ
 を、本当に情けなく感じている証に見えた。そんな眞姫が気にかけていることは、それだけの
 想いを表現することのできる、本当に大切なことなのだ。
 『自分の親友が、危ない』
  眞姫がすぐに思い描いたことは、間桐愛美のことだった。
  16年間、ずっと一緒に歩んできた少女はしかし、魔術に関しては素人も同然なのである。
 眞姫と違い、愛美は魔術師として歩むことを自ら選択してはいない。魔術師とさえも呼ぶには
 躊躇われるほど、そこに生まれる差は歴然としたものだ。
  助けに行かなくては、眞姫は何よりも先にそれを考えた。
  聖杯戦争とは聖杯を奪い合うだけの戦いではない。魔術師が魔術師を殺すための、殺し合い
 の戦いでもある。
  そんな戦いの中に彼女一人を、残しておいてけぼりにできるわけがなかった。
  ましてこの聖杯戦争に潜む影の正体は謎に包まれている。寸劇と呼ぶには晴れやかなものと
 はまったく裏の顔を持ったこの惨劇を、仕組んだ誰かは何を考え何を思い、再び巻き起こした
 のか、そのすべてがわからない。要するに、何が起こっても何ひとつ、それは異常でもなけれ
 ばおかしい事でもない。
  だからこそ早く、早く彼女の元へ……。
 「――――マキ。どこへ向かえばよいですか?」
  一瞬の出来事だった。眞姫は抱きかかえられると、セイバーを見上げる形になる。「え? 
 あ、う……」とまともな単語が出てこない眞姫にセイバーは優しく微笑んでみせる。
 「安心して下さい。あなたの守りたいものは、私も一緒に守ります。あなたが戦うと望めば、
 私も共に戦おう。今ここに、私たちの契約はなされた。さあ、マキ――」
  白銀の鎧に身を包みし黄金の獅子が、ここに誓った。我は貴女の剣となり盾となると。
 「ありがとう……セイバー」
  精一杯の思いを込めて、眞姫はセイバーにしがみついた。屋敷より一歩踏み出せば、それは
 魔術師として在ってきた遠坂眞姫ですら知らない、本当の戦場である。だから行くのだと、だ
 から逃げないのだと。――――そこには、大切な人たちがいるのだから。

 ******

  間桐愛美が学校より帰宅後すぐに眠り、目を覚ましたのは月も高く昇る深夜である。
  時計の針は午前0時を少し過ぎたあたり。
  月に一度だけ、親友に連れられて魔術の練習をする際にはいつもこのパターンで眠り、そし
 て起きる。
  夜とは、世界が目を瞑る時間である。そんな言葉をふと愛美は思い出す。
  静かな夜だな、と思いながら愛美は庭へと出ると、隅に座する土蔵を見やった。視線の先に
 は魔術師の工房としてはあまりにも小さすぎる物置だ。
  それは愛美の祖父、衛宮士郎が唯一この場所に置いていったものだそうだ。
  戸を開けて中へと入る。足元に散らばるがらくたの山は、毎度毎度変わらない。魔術の練習
 に使った道具が散乱こそしているものの、決して汚いわけでもない。
  眞姫ちゃん曰く、この場所は実に魔力を扱いやすい場所なんだとか。
  月に一度の練習は決まってこの場所で始まり、この場所で終わる。魔術師見習いである愛美
 には、ここが魔術師としての発端であると共に、祖母とライダーを置いて去った祖父の遺物で
 あるという心と心とが鬩ぎ合うなんとも複雑な場所でもあった。

  間桐愛美が生まれた時、当然ながら祖父はいなかった。
  それも当然である。愛美の母親ですら、その顔を覚えてはいないそうだ。
  今となっては、衛宮士郎という人間と共に同じ時間を過ごしたのは祖母である間桐桜とライ
 ダーの二人だけだ。桜おばあちゃんとライダーさんは誰よりも優しく、そして暖かく包んでく
 れる。そんな二人を置いて、自分勝手に出て行った酷い人物であると、幼い頃の愛美は何度も
 そう思ったことがある。
  にもかかわらず、祖父の話を聞けば聞くほど、大好きな二人の顔から笑顔が消えることはな
 かった。懐かしい思い出であるように二人は話し、最後は必ずこう締め括る。何度聞いても、
 それが変わることはない。
 『衛宮士郎という人間は、正義の味方であったのだ』と。
  幼い頃の愛美にはその意味を理解することができず、今でさえその意味は図りかねている。
  酷くないはずがなかった。だって祖父は二人を置いて出て行ってしまったのだから。
  それなのに、どうしてあの二人はあんなにも嬉しそうに笑みを零すのだろうと、そう思わず
 にはいられなかった。

  考え事をやめて、愛美はガラクタを一気に端へと寄せると、正座で腰を下ろした。
  悔しいことに、ここは落ち着く。
 「ふぅ……」
  一度大きく息を吸って、吐いた。
  間桐愛美は遠坂眞姫ほどに秀でた魔術の才は持っていない。
  愛美の母はどうしてか魔術の才を何ひとつ持ち合わせることはなかった。おばあちゃんはそ
 れをいいことだと喜んでいたことも思い出す。そして愛美は一世代を越え、僅かな魔術師とし
 ての素質を持って生を受けた。
  眞姫ちゃんは腕を磨けば立派な魔術師になれるって言ってたけれど、正式な魔術師になろう
 とも思ってはいない。『なる』と、そう言った時のおばあちゃんの顔は容易に想像がついた。
 きっと悲しい顔をするに決まっている。だから愛美は魔導の道に進もうとは、今のところまっ
 たく考えてはいない。
  ふと、再び考え事に没頭してしまった自分にいけない、いけないと首を振って愛美は、目を
 瞑る。
  聖杯の再降。聖杯戦争の再開。
  選ばれた魔術師として、自分のできることを精一杯やるために、未熟ながらも愛美はサーヴ
 ァントの召還を行うため精神を集中させる。
  じわりと、血液とは違う何かが身体の中を巡る感覚に、顔を顰めた。こればかりは慣れるも
 のではないと思いながら、魔力回路へと移行しようとしたその時。
 「これって……!?」
  突如鳴ったのは屋敷全体に張られた魔術結界の警鐘。
  それは何かが結界へと触れ、その何かが敷地の中に侵入したことを意味する。猫やネズミが
 引っかかる例もたまにある。それでも、一年に一度あるかないかの珍事が、こんな夜に起こり
 得るとは思えずに、愛美はごくりと息を飲みこんだ。
  世界は既に変貌していた。ここはただの人間が立ち入れる空間ではなくなっている。圧倒的
 な血の匂いと死の匂い、そして心臓を握り潰さんばかりの魔力が、空間を歪めんと強大な圧力
 として土蔵を逼迫する。
  侵入者、それも人を外れた化物であることくらい、見習い魔術師である愛美にでもわかった。
 「ここもあの頃から変わらねえ、か。オレ自身の時間という概念は捨ててきたと思ったんだが、
 記憶ってのは厄介なもんでな。覚えていれば、それは過去や未来になっちまう。いい気分はし
 ねえのさ。分かるかい、お嬢ちゃん」
  しみじみと、しかし淡々と語る声がこの小さな空間に響き渡った。
  その一言一言に呼吸が乱れ、愛美は左胸を押さえながらに辛うじて耐える。冷や汗が全身を
 伝い、押さえる心臓がうるさかった。悪質な細胞が全身を苛むような悪夢、初めて感じる本当
 の恐怖。普通の人間であるならば、心臓が既に停止していてもおかしくないのではないかと思
 える程、五感すべてが警告を発していた。
  つ、と頬に冷たい何かが触れる。辛うじて愛美は視線でその正体を追った。
  この世のものとは思えない程、血色に染まった愛美の腕程もある槍が、そこにはあった。
 「あ……あ、」
  言葉が詰まる。
  本当の恐怖に触れて愛美は初めて理解した。
  真の恐怖に侵された者は五感のすべてが麻痺状態に陥り、思考回路が焼き切れる。脳の命令
 を神経が完全に拒絶してしまう、つまり死を悟ったその瞬間、人は何もできなくなってしまう
 のだ。
 「ほう……たいしたもんだ。わかってないようで、要点だけはきちんと押さえてやがる」
  背後に立つ男が感心したように言った。
  
真の恐怖に侵された者は何もできなくなってしまう、だが。その恐怖に立ち向かえるだけの
 光を持つ者は、きちんと息を吹き返す。
  気付けば愛美の思考は、なんとかまともな呼吸ができるくらいには落ち着いていた。それが
 どんな意味を持つのか、ランサーも感じ取っていた。
 「既にサーヴァントを召還した、というワケじゃなさそうだが。まぁ、マスターの言う通りっ
 てこったか。嬢ちゃんの左手に浮かび上がってる聖痕は紛れもない本物ときた。面倒事になる
 前に、ケリをつけちまった方がよさそうだな」
  つ、と槍の穂先が僅かに下がる。槍の先には、愛美の左手。
 「い、や……」
  それが精一杯の声。だが。
 「悪いな譲ちゃん。何も殺そうってわけじゃねえんだけどよ。手を片方失くすのは辛いだろう
 が、死ぬよりはマシだと思ってくれや。こんなトチ狂った戦いで命を落とすよりは、懸命な判
 断だとオレは思うぜ」
  真っ赤な槍が振り下ろされる。加速も何も、この距離ではただ単に重力とほんの僅かな力だ
 けで、少女の片腕を落とすくらい、造作もないことだった。
  もう目を瞑ることしかできなかった愛美はぎゅっと瞼を閉じ、耐え難いであろう痛みを待つ。
  もうそれしか、できなかったから。
 「…………?」
  だが、その痛みは一向にやってこなかった。恐る恐る目を開ける愛美の視界、閉じきってい
 た空間が、外界と繋がっている。
  夜風が愛美の頬を撫で、開け放たれた扉の先には、一人の姿。夜に溶け込む紫の髪を流しな
 がら、そこにはライダーが立っていた。思わず愛美は涙を零しそうになる。
 「何をしているのですか、ランサー。その槍を、今すぐ愛美から退けなさい」
  眼鏡の奥に眠る瞳孔が僅かに広がる。
  愛美が今までに感じたことのない殺気が、ライダーから愛美の背後にいる男に向けられてい
 るのだと気が付いた。ライダーの表情はこれまで見たこともない程に険しく、柔和な箇所は欠
 片もなく。
  槍は愛美の左手の僅か手前で静止し、男もまたライダーへと口の端を吊り上げて言った。
 「ほう、こいつは驚いた。まさかテメエまでいやがるとはな、ライダー」
 「昔話に付き合うつもりはありません。貴方に与えられた選択肢は二つだ。今すぐ愛美を解放
 して退くか、それともここで私に滅ぼされるか。私を本気で怒らせない方がいい」
 「そりゃあ、大した自信だな」
  槍の角度が僅かに変わる。
  愛美の左手だけに向けられていた穂先は、愛美の首にあてがわれると、ぴたりとくっついた。
 「生憎とこの嬢ちゃんの命はオレが握ってる。確かに今のテメエから感じ取れる魔力は異常だ
 が、この状況を覆せるだけの速度は、テメエにはない。それくらいわからねえわけじゃねえだ
 ろう」
  ライダーが後ろ足を一歩引いたところで、止まる。
  ランサーと呼んだ男の言う通り、本当に動けないのだ。敏捷の差は、どうしてもランサーに
 分がある。
 「いや、久々に感じた殺気は心地よかったぜ、ライダー。だが、こいつは一体何の余興だ? 
 探索に出かけてみりゃ、ここは前と変わらずにある。おまけに目の前には前回の聖杯戦争にい
 たサーヴァントが立ってやがるときたもんだ。この譲ちゃんのサーヴァントじゃなさそうだが、
 肩入れしてるのは違いないと見ていいんだろう?」
 「あなたの言う通りですが、残念ながらこれは余興でも何でもない。あるはずのない聖杯を媒
 介にサーヴァントは召還され、何かがおかしいまま聖杯戦争が始まろうとしているのです。あ
 なた程の英雄ならば、この事態が由々しき状況であるくらいわかるはずだ。槍を退きなさい。
 そして我々サーヴァントは一度、対策を講ずるべきです」
  ライダーの言葉に、しかしランサーは不敵に笑った。
 「ハッ――! 悪いが話合いをしてこいという命令は受けてねえ。マスターである魔術師を発
 見すれば、再起不能に陥れる、それがオレ達サーヴァントの務めってもんだろう。話合いだな
 んていう甘っちょろい言葉は、元々好きじゃないんでな!」
  この小さな空間が、愛美を中心に凍りつく。
  険しい表情で、瞬く機会を伺うライダーと、槍を愛美の首筋にあてるランサーとが、対面し
 て数秒か数十秒か。
  仕方がない、というようにランサーの握る槍が、ぎしりと軋んだ。
  状況が変化する、そう愛美自身も感じた時。
 「―――ッ!?」
  ランサーの穂先が愛美より離れ、土蔵の隅にまで移動した。愛美はその事態を飲み込めない。
  ランサーは自ら退いたのか。それは否。ランサーは何者かによって、突き飛ばされたのだ。
 「なっ……!」
  絶句とも取れる言葉の切れ端を残したのはライダー。
  夜の広がる世界から、暗闇に溶け込んでいたサーヴァントがその姿を形作る。
  愛美に背を向け、ランサーと対峙するカタチでそれは何処からか現れた。
 「サー、ヴァント……」
  衣服は全てが黒色に染まり、右手には月の光を映し出す程に映え映えとしたナイフが一振り。
 まさに闇の中を駆けるイメージそのものに、異色の包帯か何かがその眼をぎちりと縛り上げて
 いる。その姿はさながら、これから死刑台へと送り出される罪人にも等しかった。
  また、愛美はようやく自分自身に槍を突きつけていたサーヴァントと対峙した。
  武装は2メートルを超える朱色の槍。群青の男はどこか野性的な風貌を持ちながらに、全身
 を黒一色に染めるサーヴァントを睨み付けている。
 「愛美のサーヴァントでは、ない……! これは、一体……!?」
  ライダーは困惑と警戒の表情のまま、この事態を見据える。
  だが、一人。ここに居合わせる一人だけが、殺気の質を変貌させて黒色のサーヴァントを出
 迎える。槍を握る手の軋む音が、愛美の耳朶を打った。
 「随分と舐めた真似、してくれたじゃねえか」
  凄まじい怒気と覇気。真紅の瞳が大きく開き、小細工を講じたサーヴァントを凝視する。
  不意を突かれたとは言え、ここまで完璧に何もできなかった己と、生かされた、という恥ず
 べき現実に、ランサーの奥歯が軋みをあげる。
  愛美はまたしてもこの空気に飲み込まれていた。死ぬ、という直感と、そう感じさせる絶対
 の恐怖。何もかもが規格外で、常軌を逸している、そしてこれが、聖杯戦争なのだと知るのだ。
 「……いつでも殺せたってわけか。ハ――! めでたいヤロウだ。テメエは今、千載一遇のチ
 ャンスを逃したってことを思い知ることになるぜ。テメエのその傲慢さと甘さを、死んで後悔
 するんだな――――!」
  血の槍がこの狭い土蔵の中で弧を描いた。狭い空間でありながら、ランサーはその長物を障
 害物にぶつけることなく、繰り出した。次いで飛び散る火花は槍とナイフが衝突した証。暗闇
 に散る閃光、そして響音。何度目かの撃ち合いを経て、ふと愛美は自分の身体が持ち上がった
 ことに気がつく。
  黒色のサーヴァント。サーヴァントは愛美を抱え上げるとそのまま、一歩後退り次の瞬間、
 自分が夜空の下にいるのだと視界に映る月を見て知った。黒色のサーヴァントは土蔵の屋根を
 突き破ると月光の下へと飛び出たのだ。
  真下から響く声に、愛美を抱えるサーヴァントは下を向く。
 「すまない。俺ができるのはここまでだ」
  ランサーの槍が地上から空へ向かって繰り出される。追撃の速度は彗星のように、一直線に
 向かってくるランサーの槍を、黒色のサーヴァントが辛うじてナイフで弾き返した姿を、愛美
 はゆっくりと見ていた。
  愛美は抱えられたままに放り投げられると、月夜を浮遊感と共に漂う。投げ出されるその瞬
 間、黒色のサーヴァントの言葉が愛美の脳裏に焼きついて離れなかった。
 『君のサーヴァントがきっと助けてくれる』
  この状況で召還の儀式もへったくれもなかった。
  だから出来ることといったらただひとつ。愛美はただ願う。精一杯に、一生懸命、願うのだ。
 「――お願い」
  願いをここに。不出来な魔術師だけれども、願う心は誰よりも、誰よりも強く――――。
  小さな痛みと引き換えに、愛美はそのまま意識を失った。
  ただ、彼女がそのまま落下することはなく、誰かに抱えられたところまでは、起きたその時
 でも覚えていることだろう。

 「これはまた、厄介ごとに引っ張り出されたものだな」

  愛美を抱える男は溜息混じりに呟いた。
  それでも、その表情には僅かな笑みが浮かんでいたのである。何か懐かしいものに出会った
 ような、そんな感じ。
  ただそれもほんの束の間だ。愛美を抱える男はすぐに表情を引き締める。
 「それでは、お手並み拝見といこうか」
  男は真っ赤な外套を翻して、月夜に駆ける青と黒を見上げる――――。

 ******

  赤い軌跡が夜空を彩り、白銀を打ち据えて火花を散らす。
  月光を反射させながら翻るナイフは、辛うじて槍を押さえ込んでいると言ってよかった。紅
 点が3つ。繰り出される刺突にナイフが合わさるも、そのうちの一撃が黒色のサーヴァントの
 髪を数本と散らした。
  槍より繰り出される複数の攻撃は、常にいずれかが同時に繰り出されるものと同じ意味を紡
 ぎだしている。速いのではなく、疾いのだ。初撃と次撃の間には、空白の時間が存在しない。
  そして、その瞬撃より黒色のサーヴァントが生き残ることができている理由は、血に染みこ
 んだ繊細な身体の捌きと足取り、紡ぎだされる独特の歩法にある。いつしか呪ったこともある
 血に助けられ、数十合と打ち据えてふと距離が開く。
  ランサーは攻めにすべてを注ぎ、黒色のサーヴァントは守りにすべてを注いだ。
  結果として、二人は未だ顕在。
 「テメエ……アサシンだな」
  つ、と真紅の視線を通わせる。
  槍は大地に穿つように下を向き、握る腕には力がこもる。
  次の一撃で勝負をつける、そのつもりであるのだろうか。
 「ご名答。そういう貴方はランサーのサーヴァント。まったく、ついていない相手に出くわし
 た」
 「言っただろう。テメエは千載一遇のチャンスを逃したってな。……暗殺者風情が、オレとま
 ともに打ち合えると思うなよ――――!」
  槍ごとランサーが突っ込む。
  アサシンは一歩二歩と後ろに跳ぶと、三歩目で宙に飛んだ。ふわりと、アサシンの身体が夜
 空を舞う。
 「馬鹿が――ッ!」
  大地を向いていた穂先が、一転して夜空を穿たんと方向を変えた。
  月を背にするアサシンの姿がランサーの視界と間合いに納まった。アサシンを月ごと穿たん
 と、握られた槍が天空へと放たれる。
 「悪いなアサシン、こいつで、終いだッ――――!」
  紅一点。速度と殺傷力はこの瞬間だけ、あらゆるものを凌ぐ必殺となり、槍は――必殺であ
 るはずの槍はしかし虚空を穿った。
  視界からアサシンの姿が消えた。槍は夜空で霧散し、その反対側に、たん、とアサシンが着
 地する。
 「ふぅ、今のはさすがに危なかった」
 「こいつ……宙を蹴りやがったのか……!?」
  ランサーが訝しげにぽつりと呟く。
  こいつは本当にアサシンか、と。
  互いに再び間合いが開き、静寂が訪れる。ランサーは最初から全力で潰しにかかるべきだっ
 たと、アサシンはとんでもない敵に手をだしてしまったと、互いが互いの中で自らの至らなさ
 を悔いた。
  決着をつけるならば、それはひとつしかない。小細工をこれ以上講ずる必要もなければ、時
 間も無駄に裂く必要もなかった。先にあるのは、勝利と敗北のどちらかだけ。
  だが、ランサーもアサシンも互いに武器を納めて、やれやれと、ランサーが愚痴った。
 「こいつはさっさと仕留めておくべきだったな。オレとしたことが、つい楽しんじまった」
 「お誉めに預かり光栄ですね。ですが、今日のところはこの辺りでやめた方がお互いのために
 なりそうだ」
  ランサーとアサシンの視線が動く。二騎のサーヴァントの視線はその一点に注がれた。
  視線の先、そこには衛宮邸の敷居を跨ぐサーヴァントの姿。
 「……まさかテメエまでもが呼ばれてるとは、まったく冗談がきついぜ」
  ランサーが顔を覆って仰々しく天を仰いでみせた。
  だが、指の隙間からは殺気を迸らせた真紅の瞳を覗かせている。
 「お久しぶりです、とだけ言わせて頂きましょう。ランサー」
  そこには白銀の甲冑を纏う黄金の獅子の姿。剣の英霊、セイバーが立っていた。

 ******

  ランサーとアサシンとセイバーと、そしてライダーと。
  まさかこの夜、これだけのサーヴァントが一同に会するなど、誰が思ったことだろう。
  遠坂眞姫はごくりと息を飲みこんで、その光景をただ見つめていた。いや、見つめることし
 かできなかった。
 「こいつはまた、随分と物々しくなっちまったな。ったく、興ざめもいいところだ」
 「今回もまた、立ち塞がるつもりか、ランサー」
  さあね、とランサーはセイバーの問いに飄々と答える。
  今回も、ということはこのランサーも、前回の聖杯戦争に参加したサーヴァントなのだろう
 と眞姫は考える。第五回聖杯戦争に参加したランサーの正体。アイルランドの光の御子、クー
 ・フーリン。それが祖母の手記に記されていた、ランサーの真名だ。
 「――して、貴様は新顔と見受けるが。何処のサーヴァントだ?」
 「…………」
  ランサーからアサシンへと視線を移し、セイバーが問う。
  だが、アサシンは無言のまま、答える様子はない。
  眞姫はサーヴァントをセイバーに任せ、この場所にいるはずの三人の姿を探す。ライダーさ
 んは土蔵の入口の前。だが、桜さんと愛美の姿が一向に見えないのが気になる。屋敷の中にい
 るという可能性も当然ある。ライダーさんが危険を配慮し、敢えて屋敷から踏み出さないよう
 言い聞かせているのかもしれない。屋敷の中にいるのだろうかと視線を動かしたその時、三軒
 向こうの屋根の上に人影を見た。そいつは弓を限界まで引き絞り、空に向かって何かを放つ瞬
 間だった。
 「――”偽・螺旋剣”――!」
  その声は聞こえない。
  聞こえぬものの、そいつが何かを口にして鏃を放ったのは確かだった。
  まるで夜空を流れる星のように、あまりにも流麗な輝きに見惚れて、それが自分達に向けら
 れて放たれたものであると気付くのに眞姫は少しだけ時間を要した。
  解き放たれた膨大な魔力に、すべてのサーヴァントが一斉に月夜を見上げる。
 「ライダーさん! セイバー! 伏せて!!」
  眞姫の叫びにすべてのサーヴァントが反応する。
  ランサーとアサシンはいち早く敷地から離脱。眞姫はセイバーの腕を強引に引っ張り、半ば
 倒れるような形でその場に伏せた。直後、強烈な破砕音が木霊する。
 「マキ、大丈夫ですか!?」
  気付けばセイバーが上になり、眞姫をあらゆる飛散物から守る形になっていた。守るつもり
 だったのに守れられた眞姫はちらりと辺りを見回して、ゆっくり頷く。
 「え、あ……うん。わたしは大丈夫だけど、セイバーは?」
 「ええ、私の方も問題はありません。しかし今の攻撃は――――」
  二人で辺りを見回す。
  相当な衝撃にも関わらず被害は奇跡的になかった。衝撃そのものを無効化できずとも、緩和
 させるだけの力がこの屋敷全体を覆っている。日本に誇る屈指の魔術師が、有事のために作り
 上げた防護結界。その意味と役目を、ここに果たしたのだ。
  それを知ってか知らずか、ランサーは屋敷の裏手の塀の上に、アサシンは出入口の塀の上に
 それぞれ立っていた。当然ながらに無傷で。
 「あの狸がッ……! 相変わらず汚ねえ手を使いやがる……!」
  ランサーが視線の先にいる男に毒づいた。
  漆黒の中に赤い外套が月光に照らされ、映える。その手には弓が握られている。クラスは、
 アーチャー。それで間違いないと見ていいだろう。
 「ふむ、恐れ入る。今の一撃で一人くらいは消せると思ったのだが」
  アーチャーが口の端に笑みを浮かべながら、そうのたまった。それだけの自信が、あの弓兵
 にはあったのだろう。確かに先の一撃で被害がなかったことは、本当に奇蹟に等しい出来事だ
 った。
 「それとランサー。汚い手という言葉は訂正して頂こう。今のは私なりの戦術だよ。如何に効
 率よく敵を殲滅させるか、君とて考えたことはあるだろう? それともまた英雄の誇りとやら
 が、などと甘いことを言うのではあるまいな」
 「相変わらず虫唾が走る物言いだな、アーチャー。できればテメエとは、二度と会いたくはな
 かったんだがな」
  同感だ、とアーチャーはやれやれと首を横に振る。
  眞姫はここでもうひとつの確信を得た。
  今のランサーとアーチャーの会話からして、あのアーチャーも前回の聖杯戦争に参加したサ
 ーヴァントに違いない。白髪、日に焼けた褐色の肌。そして、戦場を駆け抜ける時に纏う真っ
 赤な外套。
  眞姫は信じられないながらも、確信するしかなかった。
  第五回聖杯戦争、遠坂凛のサーヴァントはアーチャー。外見からその特徴まで、すべてが一
 致するサーヴァントはそうはいまい。
  間違いないと改めて思わされる。
  あのアーチャーが前回の聖杯戦争で、祖母である遠坂凛と共に聖杯へと挑んだサーヴァント。
 「……アーチャー、貴方までもが呼び出されたというのか……」
  セイバーが緑玉の瞳を大きく見開いて呟いた。
  ふと、眞姫はアーチャーを見つめるがままに、少しだけ目を細めた。
  なんだろうか、アーチャーの足元に人影があるような気がする。注意深く凝視し、その人影
 こそが眞姫のもっとも助けたく、もっとも力になりたかった大切な親友であると、気付かぬわ
 けがなかった。
 「まな、み……? 愛美ッ!」
  気付けば眞姫は叫び、そして駆け出そうとしていた。意識を失っているのか、それとも既に
 事切れているというのか。動く気配のない尋常ただならぬ様子を前に、ポケットの中の宝石を
 いくつも握り込んだ。あのサーヴァントか、あのサーヴァントが愛美をあのような目に合わせ
 ているのかと。
  一直線に眞姫はアーチャーを睨み付け、一歩を踏み出そうとした時だった。
 「――――落ち着いて下さい」
  それをセイバーが押し留める。
 「マキ、今ここで冷静さを欠いては、状況は更に混沌と化し最悪な事態を招いてしまいます。
 あなたの師である凛は、激情することはあっても最低限の冷静さと判断力は常に兼ね備えてい
 た。マキの目指すものが凛であるなら、ここは耐えて欲しい。敵は、アーチャーだけではあり
 ません」
  眞姫の視界にランサーとアサシンの姿が再び映りこんだ。
  そうだった、と改めて思い知らされ、自責せずにはいられなくなった。見つめるべきは、異
 様なこの状況なのだ。ランサーがいて、アサシンがいて、アーチャーがいる。これらのサーヴ
 ァントは個々で敵対しながらも、自分達にとってさえ味方ではないのだと再認識する。誰かが
 不用意に動けば、今保たれている均衡は瞬く間に崩れ去るだろう。
  そこまで考え、ようやく眞姫は僅かでこそあれ、冷静さを取り戻す。
 「さすがですねマキ。それに見て下さい」
  セイバーに促されるまま、愛美の姿を眞姫は再度視界に納める。
 「彼女は無事です。少なくとも、命の危機を一分一秒を争い、状況が大きく変化することはま
 ずないと考えていいでしょう。ならば、私たちのやるべきことはただひとつ」
  うん、と眞姫も頷く。
  このこう着状態をいつまでも続けるわけにはいかない。誰かが、誰かがこの状況を打破しな
 くてはならないのだ。セイバーと眞姫が意を決した直後、静まり返る衛宮邸の庭の中心に、彼
 女が立っていた。
 「――そこまでです」
  その言葉は、今ここにいるすべてのサーヴァントに向けられて放たれたもの。その言葉に、
 その声に、そしてその魔力に、眞姫の身体は思わず震え上がった。
  紫の髪が風に大きく揺れ、眼鏡の奥に潜む瞳孔はあらゆるものへと警告を発する。
  言葉の重さに、声の重さに。そして、この場にいるすべてのサーヴァントの魔力を凌駕する、
 ライダーへと視線が集まる。
  50年前の第五回聖杯戦争。遠坂凛の手記にすらすべてを語られることのなかった不詳事実
 は、きっと故意に記さなかったものだと思われる。
  眞姫の知る真実はただひとつだけ。間桐桜と今もなお、穏やかに寄り添うライダーという女
 性が、第五回聖杯戦争終結後も膨大な魔力を糧に現界し続けているサーヴァントであるという
 こと。それを今、改めて思い知らされる。
 「これ以上この場所を荒らされるわけにはいきません。まずはランサー、そしてアサシン。あ
 なた方はここから退場願います。この警告を受け入れて頂けないのであれば、強硬手段も辞さ
 ない」
  誰もが息を飲んだ。
  今ここで、ライダーと正面からぶつかり合い無傷で帰ることができるサーヴァントはまずい
 ないと見ていい。ランサーもアサシンも、アーチャーやセイバーでさえ、今目の前にいるこの
 サーヴァントには勝てない。
 「こいつは参ったな」
  一番に行動を起こしたのはランサーだった。お手上げのポーズを悪戯染みてとると、く
るり
 と身を翻す。
 「アサシン、セイバー。それにライダー。テメエらとの決着はいずれしっかりと着けさせても
 らうぜ。どのみち退かなきゃならねえとは思っていたが、最後に面白えものが見られたからな。
 そいつで良しとさせてもらう。いい土産話になるってもんだ」
  そしてランサーの姿は夜の闇に掻き消える。静寂、追う者は誰一人いない。
 「アサシン、あなたには少なからず感謝の意を。だが、ここは退いて頂きたい。連れの魔術師
 も近くにいるのでしょう?」
  その言葉に、アサシンの隠された両目を含む表情全体が、少しだけ変化した。
  「……わかりました。ここは一度退かせてもらう。後日また、正式な形で訪問させて頂く事
 にします」
  アサシンもまたランサー同様に身を翻す、が何かを思い出したかのようにぴたりと止まる。
そして、最後に一言だけ。
「俺はアサシンのサーヴァント、シキと言います。改めて訪問させて頂くまでの間、覚えておい
 て下さい」
  そうしてアサシンの姿も漆黒の中へと消える。
  残ったのは、眞姫とセイバー、アーチャーと愛美とライダーである。
  ライダーの視線を受けてか、アーチャーが愛美を抱え庭の隅へと舞い降りる。
 「まずはセイバー、お久しぶりです。それに眞姫、あなたも無事でよかった」
  ライダーの挨拶にセイバーが僅かに緊張感を漂わせるが、眞姫がひょいっとライダーの手を
 とる。眞姫もまた愛美以上にライダーを慕っている。セイバーには彼女が味方であることを伝
 えなくてはならなかった。
 「セイバー、大丈夫よ。ライダーさんは、わたし達の味方だから」
  はい、と優しい表情でライダーが眞姫の頭を撫でた。なんとも仲睦まじい様子に、セイバー
 がずかずかと歩み寄り、
 「む……そうでしたか。お久しぶりです、ライダー。それとマキ、あなたは私のマスターです。
 ですから、立つのはこちらです」
  と、眞姫を抱えて自らの横に並ばせる。まるでライダーをライバル視するような視線を向け
 るセイバーに、ライダーが苦笑を漏らした。
 「 はい、あなたも変わりないようで何よりです」
  そうして、全員の視線がここにいるもう一人のサーヴァントへと向けられる。
  庭の隅で、間桐愛美を抱きかかえていたアーチャーが、ようやくかと歩み寄ってくる。
  眞姫とセイバーが警戒の念を強めるのとは裏腹に、ライダーはアーチャーから愛美を抱き受
けると、こちらも懐かしそうに挨拶を交わすのだった。
 「お久しぶりですね、アーチャー」
 「まったくだ。君も随分と長い間、こちら側の世界にいるのだな」
 「ええ、それが私の選んだ道です。後悔など一度たりともしたことはない」
 「そうか。ならばそれが君にとって最善なのだろう」
  そんな二人の会話を警戒心剥き出しで見つめる魔術師とサーヴァントが一組。
  ふと、殺気に気付いたライダーが二人に歩み寄ると、とんでもないことを口にした。
 「眞姫、アーチャーは愛美のサーヴァントです」
  ……へ……? 理解できていないことをライダーは感じたのか、もう一度繰り返す。
 「ですから、アーチャーは愛美が召還した愛美のサーヴァントです」
  念を押されたことで、夢じゃないと知らされる。口を開いても声が出ない。
  何度目かの空気との会話を終えたところで、ようやく眞姫は悲鳴さながらに声を出した。
 「こっ、この性格悪そうな無差別テロ男が愛美のサーヴァントッ!? 嘘ね! 嘘よっ、有り
 得ないわ! 愛美のサーヴァントはね、もっとこう華麗なはずよ。こんなみすぼらし
い浮浪者
 みたいなサーヴァントだなんて有り得ないわっ!」 
 「ちょっとマキ……それは言い過ぎでは……」
 「うるさいっ、セイバーは黙ってて!」
  眞姫の一喝にセイバーがしゅんと縮こまる。
 「ちょっとアンタ、正気の本気で本物なワケッ!? 嘘よね!? 嘘って言いなさい! そう
 じゃなきゃ愛美が可哀想でしょ!」
  眞姫の速射砲の如き叫びに、ようやく不動だったアーチャーが動く。
  つかつかと眞姫の前まで歩み寄ると、その頭を片手でがっしりと捕まえセイバーに向き直る。
  顔は笑っているが、なんだかあんまり笑っていない。
 「セイバー、なんなのだね、この失礼極まりないじゃじゃ馬娘は」
 「ちょっと! 痛い痛い、離しなさいってー!」
 「いや、その、えーと……私のマスターですが」
 「ほう。これが君のマスターとは、さぞかし君も苦労することだろうよ、セイバー」
  ふん、とアーチャーは眞姫の頭を離すと再び距離を置いて腕を組みなおす。眞姫はぐぉぉぉ
 と頭を押さえながらに唸った。
 「それではライダー、アーチャーは我々の敵ではないとの認識でよいのですね」
 「はい。そういうことになります」
  ハッと眞姫が顔をあげると、既にライダーとセイバーは纏めに入っていた。
  なにやら、既に先程までの出来事は解決の様相を見せているではないか。と、そこで眞姫は
 思い出した。じろりとアーチャーに視線を向け、深呼吸をして先程までのやり取りを納得させ
 る。出来るだけ愛想よく、眞姫はアーチャーへ歩み寄る。
  それをなんとも表現し難い怪訝な表情で迎えるアーチャー。
 「なんだね……まだ言いたいことがあるならはっきりと言いたまえ」
 「ねえ、アンタおばあさまのサーヴァントだったんでしょ?」
 「知らんな、誰の事を言っている」
 「――――遠坂凛。私の師、でもっておばあさま」
  そこでアーチャーの表情が微かに変化したのを見逃さなかった。確信は得ていたけれど、や
 はりアタリで間違いない。
  だが、ふいにアーチャーの口許が醜悪に歪む。嫌な予感がした。
 「遠坂凛……遠坂凛……ふむ、思い当たる節がないな」
  コ、コイツ――!? 眞姫もまた悟る。
  絶対にこいつは知っている。絶対知っているのに、言わないつもりだ。
  改めて眞姫は繰り返した。こいつ、性格が絶対最悪だ、と。
 「……ちょっとアンタ。セイバーともライダーさんとも知合いで、前回の聖杯戦争に参加して
 いるくせに、知らないはずないじゃないの」
 「しかし凛も可哀想だ。こんなじゃじゃ馬が後継者とあっては、さぞ悲しむことだろう」
 「ちょっと! 今凛って言ったじゃない!」
 「さて、言ったかどうか。生憎と記憶力には自信がなくてね」
  もはやそこに会話は成り立っていなかった。
  不敵に笑みを零し続けるアーチャーと、必死に怒りを押し留める眞姫。
  フッ、とふいに見せたアーチャーの勝ち誇ったかのような笑みが、遠坂眞姫の最後の最後の
 怒りの防波堤を完全に破壊したのだった。堪忍袋の緒が切れる、そんな便利な言葉があったよ
 うな気がして、顔も知らない先人に素晴らしい格言を残してくれてありがとうと感謝する。
  眞姫は心の中で、師へと先に謝罪した。ごめんなさい、おばあさま。わたしはコイツを許せ
 そうにありません。
 「――――アンタ……絶対性格が悪いって言われるでしょ? 言われないわけがないわ」
 「君も面白いことを言う。自己分析能力に関しては一流と認めても遜色あるまい。その言葉、
 そっくりそのままお返ししよう」
  眞姫はもう一度、もう一度だけ、師へと謝罪するのであった。
  どこかの血管が耐えかねて切れました、おばあさま本当にごめんなさい。
 「こんのォォ……ッ! 地獄に、堕ちろーーーーーッ!!」
  眞姫はポケットから宝石を取り出す。そして、
 「なッ――! 君は正気か!?」
 「正気も正気! 大マジよーーーー!!!」
  平和的な会話をしていたセイバーとライダーの横で、大輪の花が咲いたのだった。

 ******

  新都に場所を移し、ランサーは人気のないオフィス街へと着地する。
  もう2時間もすれば朝日が昇るこの時間帯である。
  辺りに電燈の明かりもなく、立ち並ぶビル群の中にも明かりに照らされている部屋は見当た
 らない。屋上の航空障害灯だけが規則的に点滅を繰り返しているだけで、人間の気配は欠片も
 なかった。
  ランサーはビルとビルとの間を繋ぐ路地裏に侵入し、いくつか角を曲がったところでその足
 を止める。コンクリートを背に、そこには煤けた茶色のスーツの男が立っていた。
 「戻ったか、報告を聞こう」
  そう、この場所には人間の気配はない。あるのは、人間より外れた魔術師の気配だけ。
 「これまでに比べたら随分と大盤振る舞いだ。アサシンにアーチャー、そしてセイバーを確認
 した。ライダーも確認をしたにはしたが、アレは今回のサーヴァントじゃねえな。とりあえず、
 これで頭数は揃ったってこった」
  ランサーとスーツの魔術師は今日までの期間に収集した情報で、3騎のサーヴァントを確認
 している。
  そして、今宵ランサーが邂逅したサーヴァントを合わせれば、七騎揃ったことになる。
  つまり、聖杯戦争が正式なルールに則った形でようやく始まることを意味する。もっとも、
 この聖杯戦争に正しいルールが存在するかどうかさえ、今となっては疑問でしかなかった。
 「ランサー、ヤツは現れると思うか?」
  男の質問にランサーは何ひとつ迷うことなく、答える。
 「現れるだろうよ。こいつは紛れもなく前回の聖杯戦争のなごりか、続きだ。サーヴァントも
 ほとんどが顔馴染みときたもんだ。現れねえはずがねえ……!」
  腕を組みながらランサーが言い放ち、スーツの男は新都に昇る月を見上げる。
  小競合いはいくつかあったものの、これでようやく聖杯戦争が始まる。
  待ち侘びた男と、邂逅できるかもしれない。握った拳が音を立て、男は不敵に笑みを浮かべ
 た。
 「……待っていろ……!」
  呪われた名を口にし、ランサーとスーツの魔術師は夜へと消えたのだった。

 ******

  そしてこの新都には、もう一組のペアが拠点として活動していた。
  このペアが未だ他のペアと接触した形跡はない。ほんの一昨日に偵察にきていたサーヴァン
 トがいたようではあるが、それは好きにやらせておいた。今はまだ、接触する必要も構う必要
 も、まして戦う必要がなかったからだ。
  無言で眼下の世界を睥睨する魔術師とサーヴァントはしかし、おかしな格好をしていた。
  魔術師は左目だけを開けた多角形幾何模様の仮面をつけ、サーヴァントは般若の面をつけて
 いる。
  その顔は愚か表情を窺い知ることはできなかった。
 「とりあえず、下準備は完了ね。宝具を無差別で放つようなサーヴァントが現れなければ、少
 なくとも外に漏れる心配はない。この聖杯戦争は、隠匿できる」
  この魔術師の思惑通りとなれば、或いは僥倖と言えるのかもしれなかった。
  この地の聖杯に与えられたナンバーは50年前に抹消されている。そう、第五回聖杯戦争を
 境に、冬木の聖杯は本物ではなかったと判断された。もっとも、破壊されたことでその真偽を
 定かにすることができなくなったため、という理由が登録抹消の大きな要因となったわけでも
 あるが。
  聖杯の消滅という事実により、魔術協会も聖堂教会もこの地より手を引いている今。今回の
 事態を外部に漏らすことは、あらゆる組織にも冬木という街にも、そしてこの街を管理する管
 轄者にとっても、良い影響を与えないであろうことはわかりきっていた。ゆえに隠匿する。そ
 れがこの魔術師にとって、今回の聖杯戦争における目的のひとつでもある。
 「しかし理解に苦しむぞ、マスター。何ゆえそなたがそこまでしなければならないのか、わか
 らぬよ。今や流浪の身、そうであろう?」
 「……そうね」
  サーヴァントの指摘に短く答えて、魔術師は仮面から覗く左目で改めて世界を見渡した。
  今となってはあらゆる組織に属さぬ流れ者の魔術師。だからといって、当初の目的を放棄す
 る理由にはならないし、何よりもこの聖杯戦争への関与は、自らが切望したことだ。
  そこに迷いは、一切ない。
 「これでいいのよ、これはわたしが望んだこと。あなたには迷惑をたくさんかけることになる
 だろうけど、それでもわたしに力を貸して欲しい。ううん、あなたはきっとわたしに付いてき
 てくれる。そう思ったから、わたしはあなたを選んだ」
  仮面を外し、魔術師は屋上の端より降りる。
  そして自らのサーヴァントを見上げた。サーヴァントもまた般若の面を外すと、振り返り己
 のマスターを見下ろす。もはやこの二人に、余計な言葉など一切必要なかった。
 「なんとも勿体ない言葉だ。私のような亡霊には、些か眩しすぎる。ならばこそ、私はこの般
 若の面のように、そなたのために狂った鬼となろう。この聖杯戦争、必ずやマスターの思うが
 ままに、動かしてみせようぞ」
 「ほーんと、一言一言がくさいんだから」
  サーヴァントの台詞に魔術師は苦笑する。だが、その言葉が頼もしい。
  魔術師は外した仮面を再び被ると、サーヴァントの隣に並んだ。
  この月夜以上に、冬木の街を暗闇に飲み込ませはしない、そう決意をこめて。
 「亡霊同士、見えないところで散々掻き回してやろうじゃないの。わたし達の役割は、この捻
 じ曲がった聖杯戦争を正しい方向へ導くことにあるんだから。そのために、あなたの力を存分
 に発揮してもらうわ」
 「承知している。マスターの言葉のままに」

  一日の夜が終わろうとしていた。
  今宵より、すべての魔術師とサーヴァントが一斉に動き出すだろう。誰もがそう思い、誰も
 がそう感じていたに違いない。
  第六回聖杯戦争、それは静かに、始まりを告げた。

 

 

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あとがき2。

前回同様にお読み頂きました皆様。ありがとうございます。
読みにくい等等(以下略

ACT1で登場したサーヴァントは5騎。ライダーは前回の居残り組なのでカウントしません。
ランサー、アサシン、セイバー、アーチャー。それと般若の面を被ったサーヴァント。
一気に登場しちゃっていますね、はい。まだ登場しただけですけども。

アサシンの召還とマスターについてのお話は、ACT2であるため割愛します。

このSSのコンセプトは成長と再会。どっちかというと後者の意味合が大きいですね。
それと忘れられがちで、まだ明確に出てきてはいませんが、このSSは月姫とのクロスです。
あの人とかあの人とかが出てきます。
また、二人の孫ーずが過去と対峙し、第五回の悲劇を繰り返さないようサーヴァントと
手を取り合い物語は進みます。

7人の魔術師と、サーヴァント。そして居残り組の+α
手を取り合う者もいれば、相容れぬ道を選択する者がいます。
信じる道こそが正しく、もっとも望まれるべき道である。
それぞれの思惑と決意と信念と、そして聖杯戦争を仕組んだ黒幕の陰謀とが交錯しながら、
果たして聖杯へ辿り着くことができるのは誰なのか。
そんなところを今後は期待して読んで頂ければ幸いです。

次話は1/20更新します。

 

 


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